更新日:2023年3月26日
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地域医療確立調査特別委員会調査報告書
平成23年6月
地域医療確立調査特別委員会 | ||
委員長 | 沼倉利光 | |
副委員長 | 中澤宏 | |
委員 | 浅野敬 | |
委員 | 菅原幸夫 | |
委員 | 伊藤吉浩 | |
委員 | 關孝 | |
委員 | 佐藤恵喜 | |
委員 | 佐藤勝 | |
委員 | 岩淵勇一 | |
委員 | 岩淵正宏 |
合併以来、登米市立病院等の経営は年々悪化している。
このため、平成20年4月から経営形態を公営企業法の「一部適用」から「全部適用」に移行し、国の「公立病院改革ガイドライン」に基づき「経営の効率化」、「再編ネットワーク化」、「経営形態の見直し」などを盛り込んだ「登米市立病院改革プラン」を策定し、地域医療の確保と経営の健全化に取り組んできた。
しかし、現実は診療報酬の引き下げ、産科・小児科の入院休止、さらに常勤医師の退職等による患者数の減少等から採算が悪化し、収支の改善の目処が立たない状況にある。
さらに市立病院だけでなく登米医療圏全体を見ても、宮城県内の2次医療圏の中で最も医師不足が深刻な地域であり、人口10万人当たり全国平均の半分以下となっていることや、市内開業医の高齢化や後継者不足の状況等から地域医療の維持自体が危機的な状況となっている。
こうした中で、本市議会においても、市立病院がこれまで以上に登米市民の命を守る医療機関としての役割を果たせるよう地域医療に関する諸問題について必要な調査・検討を行い、市民が安心して暮らせる地域医療の確立を図るとともに市立病院の健全化を推進していく必要があることから、地域医療確立調査特別委員会を設置した。
本特別委員会は、設置以来、これまで28回開催し、調査・検討を重ね、このたび報告をするものである。
平成22年2月定例会で地域医療確立調査特別委員会を設置して、1年間の会議の経過を報告する。
本会議において、病院関係の審議で各議員より現場はどうなのかの質問が多くあり、また、本特別委員会においても各委員より医療現場の生の声を調査すべきと異口同音に発言があり、市の病院勤務医37名、スタッフ440名全員と市医師会の協力を頂き、開業医34名のアンケート調査を実施した。
また、県に赴き地域医療に対する考え方を調査するとともに、平成20年に登米市と同様に総務省より支援を受け、3年目に黒字に転じた塩竃市立病院を視察した。
さらに本市と隣接し、地域医療の立地環境が同様の状況にある栗原市立中央病院と公設民営化の黒川病院も視察した。
1月、2月には、現4病院、3診療所の各医師、歯科医師と、5月には登米市医師会役員との意見交換会を実施し、先生方より直接意見を伺った。
また、登米市の医療を考える会によるアンケート調査結果や「はっとFM」の登米市の病院に関する番組に寄せられた市民の声をいただいた。
1)改革が進行しない現状
改革プランは本来、医師・医療スタッフ等の現場を中心に策定されるべき事案であるが、その経過を経ていないためか、改革プランは現場には周知徹底されていない状況にある。
登米市民病院に医師を集約し、地域の中核的な病院に位置づけて地域医療を改革したいとする改革プランが、その当事者となるほとんどの医師から支持されていない。3病院を診療所化することで中核とする登米市民病院にどんな診療科を設け、どんな経営の病院をつくりたいのか、地域医療の未来像が示されていない。
また、産婦人科、小児科の入院休止から5年が経ようとしているが、その他の医師の減少にも歯止めがかからない。全国的な医師不足だから仕方がないのではなく、仕方、やり方の具体的な攻めの方策が見えない。
現状の改革のスピードは鈍く、市民の求めるスピード感とは全く異なっており、医師、職員、医師会、関係病院、県などとの対話が不足している。改革を進展させるためにはトップリーダーの明確な意思と方向性が必要であるが、それがはっきり示されていないことから、市長、病院事業管理者の経営責任は極めて重い。
2)登米市民病院(中核的な病院)の方向
登米市民病院への医師の集約は一部を除き、非常に困難な状況である。中核的な病院の体制の実現のために、急性期病院としての役割を明確化し、内科医の充足、産科・小児科の入院及び透析治療の再開を急ぐべきである。
さらに、地域医療のニーズに対応した回復期リハビリ体制の充実を図るべきである。
3)豊里・米谷病院・各診療所の方向
豊里病院は、改革プランの位置づけを十分に果たし、南西部の地域医療の充実強化を図るべきである。一般病床数69床、療養病床30床は病床利用率の低下が懸念される。現状の一般病床を転換して療養病床を増設し、隣接している老健施設と一体化した経営の方向を探るべきである。
米谷病院は、現4病院で病床利用率が最も高く、病院として平成24年度まで暫定的に存続する理由書には「米谷病院を計画どおり無床診療所化した場合、救急を含めた機能や役割がそのまま佐沼病院に移行することとなり、更なる医師の負担が懸念されることになりました」とある。
この件は本特別委員会で実施した医師との意見交換で、病院・診療所の医師からも同様の意見があり、存続を望んでいた。
米谷病院は山間で過疎の町域にあって、病院の高い利用状況を見ても市の東部に必要性の高い病院であり、49床を維持し25年度以降も存続すべきである。
但し、登米市民病院が中核的な病院としての医療体制が整えば診療所に移行すべきとの少数意見があった。
よねやま病院は診療所に移行したが、各診療所の今後のあり方は、病院と連携強化、在宅医療の充実など、必要性、方向性をさらに検討していく必要がある。
4)経営の健全化収益改善策
市は、平成27年以降財源の柱となる地方交付税が減り続け、平成32年には現在より60億円程度の減少が予想されている。一般会計で支え続けなければならない病院経営には限界があり、自立経営ができなければ病院の存続はできなくなる。
病院事業においては、平成21年度21億円、平成22年度見込みで27億5千万円、平成23年度当初予算では約19億円の一般会計からの繰り入れ予定となっている。病院の建設や改良に要する経費、奨学資金等貸付金を除く収支に対する繰入額は、21年度14億円、22年度決算見込み19億5千万円、23年度当初予算で15億円となっており、21年度を上回る計画となっている。赤字の原因は何なのか、収益の改善に何が必要かを詳細に分析し、経営の透明化により繰入金を最小限に止め、単年度収支の黒字化を図るべきである。
特に早急に改善すべき事項として、本年1月に1.患者サービスの向上2.良質な医療の提供3.経営基盤の強化の3区分に9つの取り組みみ項目、29の実施内容の経営改善実施計画が示された。この取り組みみを通じ、職員の意識改革が進み病院が変わるためにも、トップのリーダーシップが極めて重要である。
また外部評価・経営診断を実施するなど、早急に改善項目の実現を図るべきである。
中でも経営改善と信頼回復のための意識改革・接遇の向上・病院間、部門間の医師をはじめとしたスタッフのコミュニケーションの向上に努めるべきである。
5)医師の確保対策
医師の充足は極めて喫緊の課題である。医師の確保は市長及び事業管理者の最大の責務である。国や県には、速やかにこの地域の医師の充足を責任もって果たすよう粘り強く要請すべきである。
改革プランで示す病院、診療所を維持しながらの登米市民病院への医師集約には限界がある。新たな招聘による医師数の確保が、地域医療を守り、経営の改善につながるものと確信する。
このためには、第1に、医療水準の向上が不可欠である。現状においては、研修できる医師とできないで不満を抱える医師がいる。協力してお互いが研修を重ね、進化しようとするお互いの存在が相乗効果となって病院全体の評判を回復し、積極的な病院の姿勢が新たな医師を呼び込む力に発展することを期待する。
第2に、より多くの医師が救急や夜間診療にも積極的に協力できる体制の確保である。この体制実現により医師会や、大学病院、県などの協力が拡大され、共に支え合える病院に新たな医師の集まるしくみを構築すべきである。
第3に、現に勤務されている医師の過重負担解消策と若い医師が勤務したくなる環境整備を急ぐべきである。女性医師にやさしい病院の整備であり、安心して働ける子育て支援や、医療のサポート体制の充実を図るべきである。更には、女性専門外来を新設するなど女性医師ならではの診療科目を新設し、やりがいある職場、評判の上がる病院づくりに努めてほしい。
6)公営企業法の全部適用の現状と課題
20年度から地方公営企業法の全部適用を導入したが、管理者に対して与えられた人事、予算等の権限を十分に行使することなく、3年間で一部適用から移行したことによる成果の違いを見出すことができず現在に至っている。市長と事業管理者の実質的な権限と責任を明確化し、的確に執行すべきであった。
改革プランは作成したが、不良債務の解消のための一般会計からの繰り入れを除くと医業収支の改善策が見えない。また、医師との意見交換でも現場とのコンセンサスが全く感じられず、事業管理者と現場には一体感がない。経営改善のための具体的な数値目標が23年1月になってやっと示され、職員の専門部会で作成されたことは評価するが、残念ながら事業管理者には改善に向けてのスピード感がなく、結果、21年度、22年度は入院患者数、外来患者数とも減少している。市民は市立病院に医療の充実と経営改善を求めているが、その期待に応えていないと思われる。市長、事業管理者に対して猛省を促すとともに、全部適用の機能を最大限生かすべきである。
7)病病連携・病診連携・地域医療連携
平成17年対比2年度の救急車による急病患者の搬送者は1.24倍に増え、その4割を他医療圏にゆだねている。一般入院患者は5割が仙台、石巻、大崎、一関市などの高度医療を求めている現状にある。医師不足は、市民の求める医療サービスに応えられないという状況である。現実を直視すれば、他病院との連携を一層強化することによって市民の安心と命を守るという方策を明確に示す必要がある。市が行わなければならない医療と、他に委ねなければならない医療があることを市民と共有することにより満足と信頼を高めなければならない。
開業医からの紹介率は、市立病院よりも他医療圏の病院の方が多く、意思疎通に乏しい感が伺える。しかし、医師の向上心や病院の医療水準の向上のためには頼られる病院でなければならない。入院の多くは市立病院に、かかりつけ診療の多くは開業医に、そして双方の医療機関がしっかりと患者と関わり、安心を守れる地域医療が望ましい。当面市立病院間にあっては、共通診察券や電子カルテを導入するなど具体化すべきである。
地域医療連携は予防から治療、病院から在宅医療、施設から在宅介護までを包括してケアするシステムの連携はまだ十分機能していない。今後は、地域医療連携室を中心に連携力をさらに強めなければならない。そのための行政の役割は大きく、積極的に関わることが重要である。
8)救急医療体制の充実
救急医療体制の整備、充実はまったなしの課題である。
市民病院、米谷病院、豊里病院の3病院が救急告示病院の指定を受けているが、医師が少なく過重労働、過重負担を強いている状況にある。しかし、少ない医師を1ヶ所に集約して運営しようとすれば、個々の病院の夜間当直体制が崩れてしまいかねない。救急医療体制の充実は、医師の充足と大きく関係するので多方面の協力を求めなければ実現できない。
県の再生事業で市民病院に救急センター整備、夜間急患の診療体制整備の構想が示されたことにより、医師会が真剣に検討に乗り出してくれた。
医師招聘になお一層力を尽くすとともに、開業医と勤務医の連携強化を図り夜間急患や救急センターの整備など救急医療体制の充実を図るべきである。
9)経営形態の見直しの方向
「登米市立病院の経営形態のあり方懇話会」から、市立病院の全適を検証し、今後の市立病院のあり方、経営形態の見直し、早急に取り組む事項、改善すべき事項等について答申された。
国のガイドラインでは、「法の全部適用によって所期の効果が達成されない場合には、独立行政法人などの更なる経営形態の見直しに向け直ちに取り組むことが適当である」としている。
本特別委員会で視察した塩竃市立病院は本市と同時期に国より財政支援を受け、公営企業法全部適用の形態で見事に再生し、3年目で黒字経営に転換させた。また、公立黒川病院は指定管理による公設民営の成功例であり、いずれも経営のトップが陣頭指揮を執り、強力なリーダーシップを発揮していた。
市民の安全、安心の医療体制の基本は公設公営と考えるが、公営企業法の全部適用の現状と課題を十分に咀嚼し、経営の健全化、収益改善策をはじめとする各課題に取り組むことが肝要である。
しかしながら、経営の改善が図られない場合にあっては、直ちに他の経営形態も比較検討する必要がある。
地域医療確立のために、今後の市立病院はどうあるべきか。
第1に、医療の高度、専門化にはすべて対応できなくても、まずは救急患者に対応できる1.5~2次救急の体制を整えること。へき地医療に対する責任をしっかり果たすことである。
第2に、市も病院当局も総力を挙げ、産科、小児科医の招聘を図り、できるだけ早く入院を再開させること。
第3に、急速に進む高齢化社会をにらみ、医療、福祉、介護、健康づくりの連携(地域包括ケア)には、病院と診療所が大きな役割を果たすことである。そのためには、病床数をできるだけ維持するだけでなく、リハビリ病棟や療養型病床、介護老人保健施設を充実すべきであり、在宅医療にも十分応えられる地域医療の確立が望まれる。
これを限られた医師数の中で実行していく上では、実際に医療を行う医師や看護師だけではなく、開業医との連携・協力、保健師、福祉・介護施設の職員との連携を強力に図らなければならない。つまり、予防医療を充実させ、市民の健康と命を守るためには「地域丸ごと健康づくり体制」をつくることである。
3月11日に発生した東日本大震災により、登米市の地域医療並びに市立病院を取り巻く状況は大きく変化した。隣接する南三陸町と石巻市や気仙沼市は、病院も大きな被害を受け深刻な状況下にある。市立病院、診療所は建物や医療機器が被災したものの勤務医ら医療スタッフの踏ん張り、市内開業医と全国から駆けつけてくれた救護支援チームにも支えられながら、市民はもちろん沿岸部の患者受入れに大きな役割を果たした。現在も多くの避難者が市内で生活しており、今後もこの状況は続くと予想され地域の医療と福祉の役割はますます大きくなっている。
病院改革は、「市民の安全・安心を守る」の視点を第一に、議会も共通の認識をもち、積年の諸課題解決に向け、果敢に取り組むことが必要と考え、報告とする。
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